「メディアスタジオ実習Ⅰ/メディア・ジャーナリズム論実験実習Ⅶ」(学府・教育部授業)の授業で制作された、「排除ベンチ~居心地の悪さをたどって~」という作品が、地方の時代映像祭の優秀賞を受賞しました。
この作品は、公共空間から路上生活者などを排除することを目的とした「排除ベンチ」の実態を追ったものです。ベンチは路上生活者が寝転ぶことができないようになっており、結果として路上生活者はその空間から締め出されることになります。こうした、駅や公園などの公共空間から「そこにふさわしくないひと」を排除しようとする動きは、すでに何十年にわたり起こっています。しかしこの作品では、2020年のオリンピック開催を控えて、その動きはますます加速していると指摘します。オリンピックというメガイベントが都市をいかに変容させているのか。このドキュメンタリーは変容のただなかにありながら、それを映し出しているもののように思いました。
優秀賞を受賞した教育部生の皆さんからコメントもいただきました!。
田村進也さん
私たちは情報学環教育部の授業で「排除ベンチ」をテーマとした作品を制作しました。
これは、公園などに設置された真ん中に手すりがついているベンチを「排除ベンチ」と呼び、それが実はホームレス排除を目的としているのではないかという仮定のもとで、それを検証しながら排除の歴史をたどるというものです。
そしてこの度、大変光栄なことに「地方の時代」映像祭で優秀賞をいただくことができました。
担当の日笠昭彦先生をはじめ、ご指導にあたってくださった先生方、そして取材にご協力いただいた多くの方々に改めてお礼申し上げます。
この作品は「ベンチ」が題材ということで、全く動かないものをどうやって撮るか考えるところからスタートしました。そこで、排除ベンチにご見識のある芸術家の方々、公園の炊き出しで排除ベンチに座っていたホームレスの方、長年ホームレスの支援を行ってきた方など、実に様々な立場の方にインタビューを行いました。はじめはほとんど情報がない中で手探りの状態ではありましたが、次々と出てくる興味深い事実をもとに、何度も構成を練り直しながら作品を完成させることができました。
「地方の時代」映像祭を通して、作品を見てくださった方々からたくさんのコメントをいただきました。排除ベンチについて、まったくその意図に気がつかなかった、薄々気づいてはいたが気に留めていなかった、実際にベンチで寝ようとして挫折した経験があるなど、様々な反応があったことが印象に残っています。
この作品を通して、私たちが取材で得た気づきを少しでも多くの人に共有できたらと思っています。そしてそれが、私たちが普段見過ごしがちな「排除」というテーマについて少し立ち止まって考える機会になれば幸いです。
押野晃宏さん
この作品では、90年代から現代に至るまでの都市の「排除」の歴史を追っています。ひとたび排除が完了した場所では、それ以前はそこが「誰か」の居場所であったことが忘れられてしまうことを、(忘れてしまう前に)描こうとしました。
排除ベンチや都市開発をどう捉えるかは人それぞれだと思いますが、この作品を見ていただいた方が次に排除ベンチを見掛けたときは、そのアーキテクチャがどのような意図で置かれたのか、人の行動をどのように(無意識のうちに)制御しようとしているのか、そして、そこはもしかすると誰かの居場所だったかもしれないと、想像力を働かせることができるはずです。
小山このかさん
排除ベンチのドキュメンタリー制作において、ー番大切だと感じたことは、当事者との対話です。排除され不可視化されていくものは多くあるのにも関わらず、そのことに気付けない現状に危機感を抱きながらの取材でした。マイノリティの声が消されがちなこの社会で、私は問題を可視化できるドキュメンタリーの役割に希望を抱いています。
畑谷綾子さん
私自身、映像作品を制作するのは初めてでしたが、講義や経験豊富なメンバーとの話し合いを経て作品を完成させることができ、大変嬉しく思います。
取材を重ねるごとに構成を再検討し、作品をどう帰結させるかに頭を悩ませ、ドキュメンタリー制作の難しさを体感するとともに大きなやり甲斐も感じることができ、非常に貴重な経験となりました。
(鈴木麻記)